ポケモンgoに関する解説授業

京都造形芸術大学の「ことばとコミュニケーション」の授業(2016年7月26日)の中で、30分ほど話題の「ポケモンGO」について解説を試みました。1年生の約半数がすでにダウンロードしプレイしており、関心は高かったです。学内にも数カ所「ポケスポット」があり、スマホを片手に大学周辺をうろうろする人も見受けられました。
マスコミでも幅広く取り上げられていますね。バラエティ番組的には、二項対立を煽るのが常道。水道橋博士さん、茂木健一郎さんらは賛成派、やくみつるさん、太田光さんらは反対派ですね。ただ、結果的にはどちらもポケモンGOのパブリシティを高める効果を果たしています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=2...
このゲーム、やはり、今年のエポックになることは間違いありません。いくつかのポイントを整理してみたいと思います。
(1)【ARのゲーム!】技術的には、現実の風景写真の中にピカチューのアニメが浮かんでいる写真が印象的ですね。Virtual Reality (仮想現実)と現実の組合せを Augmented Reality (拡張現実)と呼びますが、今までも実験的には使われてきましたが、これだけ多くの人がARを体験しているのは人類史で初めての出来事です。
(2)【GPSと地理情報システムを活用したゲーム】Google Map, Google Earth, Street View を統括していたジョン・ハンケ(John Hanke)氏が、Google社の社内ベンチャー的にスタートしたのがNiantic Labs という会社が Ingress というGPS陣取りゲームを2013年12月15日にスタートしました。日本でも、2015ゲームデザイナーズ大賞受賞など、評価されましたが、一般に広がるところまではいきませんでした。ハンケ氏には、ゲーマーを屋外に連れ出したい、という思いがあったそうです。
(3)【広告業界に激震】米国では7月6日にリリースされ、またたく間に「もっとも使われているアプリ」のトップに踊り出ました。この影響を受けたのがSNSとネットゲームの業界です。一日24時間は誰にとっても平等な「限られた資源(limited resource)」。多くの人が、ポケモンGOを長時間使うと、その分、FacebookTwitterInstagram やLine の利用時間が短くなっています。それは、広告媒体としての価値が低下したことを意味します。ポケモンGOは、抜群の知名度と話題性だけで、まったく宣伝費を使っていませんから、広告代理店にとっても脅威だったはずです。
http://7700.hatenablog.com/entry/20...
(4)【ネットゲーム業界は深刻】ファイナルファンタージ系や三国志系、どうぶつの森など、スマホゲームの多くは、そのルーツをゲーム機(PS、Wii、DSなど)に持ち、これを移植したパターンなのに対し、ポケモンGOは「スマホ・ネイティブ」なゲーム。GPSやカメラ、そして、歩数計まで活用したスマホならではの遊び方ができるのです。今まで、各種ゲーム機、スマホゲームでプレイしていた人のかなりの割合が、ポケモンGOに大移動していると考えられます。
(5)【課金モデルに大打撃】しかも、ポケモンGO無課金でも、かなり楽しめます。一時期「コンプガチャ」が社会問題化しましたが、ダウンロードする時点では無料でも、ゲームを有利に(あるいは迅速に)進めるために、あるいは、レアなグッズやモンスターを獲得するためには、お金を支払う仕組みになっているものが多いのです。ところが、ポケモンGOの場合、歩いて「ポケストップ」を巡ることで、グッズなどを揃えることができ、レベルを高めていくことが可能です。「今までの課金ゲームは何だったのだろう?」と思っているゲーマーは少なくないはず。逆に、ゲーム会社はショックを受けているはずです。
(6)【ブームは短い】アメリカでは、1週間でダウンロードのピークを迎えたという報道もありますが、日本でも今年の夏休みが終わる頃には、おそらくだいぶおとなしくなっているのではないでしょうか?それまでに、ファンをひきとめる対策が打てれば話は別ですが、「熱しやすく冷めやすい」ゲームではないかと思うのです。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/arti...
(7)【地域振興への応用】京都の街を歩いていると、横丁のあちこちにお地蔵様が祀られていたり、ストリートファーニチャーが鎮座していることに気づかされます。今まで目に入っても見ていなかったこれらの人工物が「ポケスポット」に指定されたことで、散歩しながら、発見の連続なのです。この技術を観光振興や地域活性化に活用したいと思うのは当然です。自民党はIT戦略特命委員会(平井卓也委員長)を開き任天堂や米ナイアンティックなどに協力を求める考えを示しています。さすが、機を見るに敏ですね。ポケモンGOの延長線上には、もっと高度な技術が来るでしょう。たとえば、本能寺の前に来ると、「高橋英樹氏扮する織田信長が、藤原竜也扮する森蘭丸に対する最期のことばを伝える動画映像」が現れるといったことが可能になるはず。これまでは素朴な「スタンプラリー」で集客を図っていた地方自治体や商店街が、このゲームの技術を活用しようとする未来が来るはずです。マクドナルドは、子どもを集客しようとしていますし、ストリートミュージシャンポケモンが発生しやすくなる「ルアー」を駅前に設置することで聴衆を増やそうとしています。
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/...
(8)【京都造形芸術大学にはチャンス】こうした技術が広く展開する未来には、情報デザイン学科、キャラクターデザイン学科、映画学科、歴史遺産学科、舞台芸術学科など、京都造形芸術大学の学生にとっては、活躍のチャンスが広がることになります。
(9)【デジタルディバイドも顕著】ネットをよく見ている人にとっては、ここまで述べてきたことは、当然のことばかりだという認識かも知れません。他方、新聞・テレビを主たる情報源としている人は「危ないゲーム」という先入観を植え付けられています。マスコミが報道するのは、「ポケモンGOで交通事故が発生した」というパターンのニュースばかり。危ないのは「歩きスマホ」なのですが、「ポケモンGO以外の歩きスマホで事故が発生した」という場合にはニュースになりません。ここには、大きなバイアスがかかっています。たとえば、下記のニュースは、ポケモンGO絡みでなければ、全国メディアで報道されることはなかったはずです。
http://www.jiji.com/jc/article?k=20...
(10)【未来へ】GPSやARを駆使したスマホ技術やゲームが、地球市民意識を育んだり、自然への感謝を深めたり、人と人とのつながりを増していってほしいと願ってやみません。そういう方向へと「ポケモンGO」が「進化」していくことを願っています。