知恵之鎖

5月29日、僕が尊敬してやまないハーラン・クリーブランド
先生がお亡くなりになりました。1918年生まれの90歳です
から天寿を全うされたと言えるのですが、もっともっと色々な
ことを教えていただきたかったという気持ちでいっぱいです。

日本ではあまり知られていませんが、20世紀のアメリカを代
表する Global Thinker !彼が、ハンフリー・インスティテュ
ートの学長(Dean)だったので、彼の弟子になるため、僕は
1987年、ミネソタ大学に入学する道を選んだのでした。

プリンストン大学からロード奨学金を得てオックスフォード大
学に留学。第二次大戦が激しくなり帰国。視力が万全でなかっ
たため、徴兵されず国務省に入省。戦後、欧州復興のマーシャ
基金のイタリア責任者となり、部下5000人。次いで、中
国の黄河の堤防工事の責任者となり部下10万人。まだ30代
前半の若さで、Public Executive としての経験を積みました。

国務省を辞して、The Reporterという雑誌の編集長に就任した
後、シラキュース大学のマックスウエル・スクール(米国最古
の公共政策大学院)の学長に選ばれました。留学途中で帰国し
たので、修士号ももっていませんでしたが、傑出した見識の持
ち主として評価され、正教授・学長になったのです。

1960年の大統領選挙では、ニューヨーク州で、ジョン・F・
ケネディを推薦する演説を行ない、ケネディ政権では国連担当
の国務次官補に就任。キューバ・ミサイル危機の時に当事者の
一人として米ソ全面各戦争回避に尽力しました。ジョンソン政
権でNATO大使となった後、ハワイ大学の総長、アスペン人文
科学研究所の国際部長を経て、ミネソタ大学ハンフリーの学長
になったという、多彩な経歴の持ち主です。

ハンフリーでは、「What works and why in international
cooperation」というゼミに参加させていただきました。国際
協力の様々な取組の中で、気象観測(WMO)、国際郵便、南
極条約、モントリオール議定書など、うまくいっている事例を
取り上げ、その成功要因を抽出するという研究で、その成果は
『Birth of a New World』(1993)という書籍として出版されて
います。僕の名前も2カ所出てきます。

国益を超えて、地球社会の未来ビジョンを構想する「ローマク
ラブ」のメンバーとして、大来佐武郎先生(僕の日本の師匠)
と親交が深かったことがハーランを知るきっかけになりました。
いくつになっても発想が柔軟で、視点はグローバル。そして、
短いコラムも、大著もこなす名文家でした。ああいう達意の文
章を書きたいというのは、僕の夢ですが、これはなかなか果た
せそうもありません。

最後にお目にかかったのは、昨年の3月、右目のまぶたがたる
んできて、しきりと指で目を開きながら、しかし、頭脳はまっ
たく衰えることなく、オバマは良い大統領になれる、と断言し
ていたのが印象的でした。

彼から学んだことを、次の世代に伝えていくこと。知恵の鎖を
つなげていくことが、弟子である僕達の世代の役割だと思って
います。

参考:Harlan Cleveland
http://en.wikipedia.org/wiki/Harlan_Cleveland
http://ourworld-top.cs.com/harlancleve/