オバマ大統領就任演説の英語解説

日本初のオバマ本の訳者としては(これ、かなり
自慢したいのだけど、あまり売れてはいないので
大きな声ではなく、こっそりと、でも自慢してる)
やはり、就任演説をリアルタイムで見ました。
 
何十回も練習したはずの宣誓の時に、言い間違え
たりして、さすがのオバマも緊張していると思い
ましたが、演説になったら、非常に落ち着いてい
て、デリバリーの技術はさすがと思いました。
 
内容については、おそらくそんなに具体的なこと
は言わないだろうと予測した通りで、レトリック
も後世に残るリンカーンケネディ、キングの再
来を期待していた聴衆からすると、永遠に心に残
る何かがほしいという感想だったのではないかと
思います。The New Yorker誌の評価も、まさにそ
んなトーンでした。
http://www.newyorker.com/online/blogs/georgepacker/2009/01/let-us-now-set.html
オバマはすぐれた説明者だが、忘れられない
フレーズの創造者ではない」
 
そんな中、やはり注目すべき表現がいくつかあり
ました。


our collective failure to make hard choices and prepare
the nation for a new age
 
(試訳)国として困難な決断を行ない、新しい時代
に備えることができなかったこと
 
(解説)特定の政府機関や政党・個人を名指しし
て批判するのではなく、国全体としての「集合的
な失敗」という言い回しを用いています。ちょっ
と日本風な感じがしました。
 
 
Today I say to you that the challenges we face are real.
They are serious and they are many. They will not be
met easily or in a short span of time. But know this,
America - they will be met.
 
(試訳)我々が直面している諸課題は現実のもの
であり、深刻であり、しかも数多い。短時間に簡
単に片付けられるものではない。しかし、片付く
のだ、片付けるのだ、ということを知ってほしい。
 
(解説)Yes, We Can! というスローガンにあった
明るい響きとは対照的に、大変だよ、というニュ
アンスを伝えています。そして、We shall overcome.
ではなく、They will be met. という言い方は、ひ
ょっとするとその課題の解決は、オバマの任期中
には終わらず、さらにその後までかかるかも、と
いう含意を感じました。拍手の大きさから言って
も、この部分が、今回の演説のハイライトでした。
 
 
We remain a young nation, but in the words of Scripture,
the time has come to set aside childish things.
 
(試訳)アメリカは若さをもった国だが、聖書の言
葉にあるように、子どもっぽさを脱却する時が来て
いるのだ。
 
(解説)コリント人への手紙13章11節に
"When I was a child, I talked like a child, I thought like a
child, I reasoned like a child. When I became a man,
I put childish ways behind me."
という節があり、ここを踏まえた表現です。学習学
的には、Learning Nation (国としての学習)を目指
す力強い宣言と評価できる部分です。特に、やはり
特定の誰かを否定・批判するのではなく、みんなで
成長していこう、という呼びかけには、オバマ氏の
明るさを感じます。他方、敬虔な保守派からすると
聖書の解釈が恣意的ではないかという批判もブログ
で噴出していて、in the words of Scripture, と入れた
ことの得失は両方あったという印象です。
 
 
What is required of us now is a new era of responsibility

  • a recognition, on the part of every American, that we

have duties to ourselves, our nation, and the world,
duties that we do not grudgingly accept but rather seize
gladly, ----
 
(試訳)今、必要なのは「新しい責任の時代」だ。
一人ひとりのアメリカ人が、我々には自分自身に
対して、国に対して、世界に対しての義務がある
という自覚を持つことが必要だ。そしてその義務
をいやいやながら引き受けるのではなく、喜んで
引き受けることが大切なのだ。
 
(解説)ある新聞では「新しい世代の責任」と訳
されていて、びっくりしましたが、唯一、歴史に
残る可能性があるのは、演説のこの部分だと思い
ます。自己責任や国家への貢献だけではなく、世
界全体に対して果たすべき役割がアメリカ人一人
ひとりにある、と宣言したのは、大不況の真っ只
中というタイミングを考えると、非常に勇気のあ
る発言だと高く評価したい部分です。ブッシュ氏
が一国で暴走気味だったのと対照的に、オバマ
は各国と協調路線をとることを期待しています。
 
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ということで、A+++を期待していた聴衆からすれ
ば「悪くなかった」という感想でしょうが、トー
タルとしては、やはりA+の採点がつく内容と言え
ると思います。
 
 
こういうニュース解説と英語学習がセットになっ
たような番組を、テレビでやってみたいと思って
いますが、見てくれるかしら?文字だけよりも、
面白くなると思いますけどね。